日刊工業新聞に「ガブテック」の取り組みが掲載されました

 

2020年1月20日、日刊工業新聞に神戸市での
「ガブテック」の取り組みについて掲載いただきました。

 

2020年1月20日(月)日刊工業新聞

 

 

神戸市「ガブテック」で先行

「行政課題 ITで解決」全国展開

 

神戸市は、ITを用いて行政課題を解決する「GovTech(ガブテック)」で先行している。 2019年度にスタートアップと行政職員が協働し、社会課題の解決に向けたサービスを開発・実証するモデルについて全国展開を始めた。20年度も市民サービスの向上に加え、全国から優秀なスタートアップの呼び込みを加速する。(大阪・中野恵美子)

 

スタートアップと協働

 

 スタートアップと行政職員が協働でサービスの開発・実証に取り組む「アーバンイノベーション神戸は18年度にスタートした。 各部署が業務効率化や地域イベントの発信など、抱える課題を公開し、商品・サービスの共同開発に意欲のあるスタートアップを公募する。 審査後、採択事業者は担当部署と約3カ月の共同開発を経て実証実験まで運ぶ。

 スタートアップは行政支援を得ながら商品やサービスを開発でき、事業拡大に向けて階段を上れる。行政側は、優秀なスタートアップ誘致や起業家育成の加速につなげられるほか、大手ベンダーなどに比べてサービスの開発・導入コストも低減できる。

 神戸市は、民間出身者を「イノベーション専門官」として採用し、民間企業のスキルやノウハウを生かしてスタートアップの育成・支援を強化する態勢を整えた。行政職員とスタートアップの橋渡し役となり、目標設定のサポートや、遠隔でのテレビ会議を通じてコミュニケーションを円滑化。これまで公開した24課題のうち70%以上が解決につながり、40%以上が行政による調達に至った。 

 「自社プロダクトを民間企業や他の自治体に提案するきっかけになった」と意義を強調 するのは、モンスター ・ラボ(東京都渋谷区)の平石真寛RPA事業部統括責任者。毎月人手で行っているレセプトチェックの自動化を実証した。

 同社は2部署と成果を上げた。 診療報酬明細書が正しいか自動的にチェックするRPA サービスを開発、年間500時間削減した。また教職員の異動に伴い発生する通勤手当の算出業務では、年間1900時間の削減を見込んでおり、両事業とも神戸市で予算化、調達につながった。

 

行事・窓口サービス向上

 

 ウェブ上で地域情報を発信する、ためま(島市中区)は18年度、神戸市長田区で子育て家庭向けイベントの参加者数増加で成果を出した。同区では毎月65回のイベントが開かれているが、紙ベースの広報から認知度向上を課題としていた。ためまは専用のアプリケーション(応用ソフト)を開発し、イベント一覧や会場までの距離、過去の様子などを表示。参加者数は従来比1・5倍に増加した。

 参加者同士が交流し、子育ての不安や孤独感の解消にも寄与することから長田区は19年度の予算に組み込んだ。同社は現在、3自治体と地域活性化をテーマに提案や実証事業を進めている。 清水義弘社長は「全国展開のひな型になるよう実績を積みたい」と語る。

 「行政との連携を強め、スマートシティーづくりに乗り出したい」と構想を描くのは、アコール(神戸市中央区)の長沼斉寿社長。オフィスの受け付け業務を省人化するアプリ開発を強みに、神戸市東灘区役所で窓口案内サービスを向上した。タブレット上で案内 担当者が利用者の相談内容に合わせて窓口を容易に検索できる機能 を搭載。平均案内時間を従来比半減するなど効果を出し、19年6月から神戸市内全ての区役所など行政窓口での導入につながった。

 これらの成果を受 け、19年度からは「アバンイノベーションジャパン」と改名。神戸発のモデルに対し、全国の自治体が参画できるようになった。すでに兵庫県姫路市や同芦屋市などが課題を公開した。

 また、神戸市はスタートアップとの共同開発案件を入札なしで導入できる対制度を創設した。外部有識者による審査会を経て随意契約でき、開発に成功した有望案件を施策に反映するとともに、優秀なスタートアップ支援を強化する。

 

優秀なVB呼び込む

神戸市新産業課長 多名部 重則氏


神戸市におけるスタートアップ誘致や育成に力を注ぐ多名部重則新産業課長に今後の戦略を聞いた。

ーガブテックに着目した契機は。
 「神戸市は、ベンチャーエコシステムの創出を目指し、2015年4月からスタートアップ支援を本格化した。 シリコンバレーの投資ファンド 『500スタートアップス』と連携し、優秀なITベンチャーなどを呼び込んだ。複数の資金調達につながるなど一定の成果を出せた。今後は起業家育成にとどまらず、ITベンチャーの強みや成長力を生かしながら行政課題の解決に照準を合わせる。これが自治体のスタートアップ育成事業の本流となるだろう」

ーアーバンイノベーション神戸の手応えは。
 「18年度実施した13課題について、8社の事業が国や神戸市での予算化につながった。地域イベントへの集客や業務改善といったテーマで成果が出たことには意義がある。通常、行政は大手ベンダーにシステム設計や開発を発注するが、失敗する可能性がある事業には手を付けられない。スタートアップは、リスクを取りながらも行政の支援金をもとに開発を進められる」

―新たな調達制度創設の背景は。

「新制度はアーバンイノベーションでの成功事例について、外部有識者の審査後、担当部局による調達を可能にする。従来、成功事例を生んでも随意契約できるのは、契約金額 が100万円以下であるなどの条件を満たす事業者に限られていた。そのため担当部局 がスタートアップのプロダクト調達を希望しても、一般競争入札を実施するため、大手ベンダーが選定される場合が多かった」

―今後のスタートアップ支援の方針は。

 「ガブテックをスタートアップと共同で進めるのが神戸市の施策だ。19年度のアーバンイノベーションでは、行政が調達すると契約金額が100万円を超える事例も出てきた。 ここで国内初の事例として、新制度を有効活用したい。 他の自治体にも神戸市が築いてきたプラットフォーム (基盤)の参画を促し、全国から優秀なスタートアップ誘致に弾みを付ける。」

 

【関連リンク】

日刊工業新聞電子版(2020.1.20)

 

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